僕が恋人とのメールにニヤついてると
隣のサラリーマンが、
(むろん、僕もサラリーマンだが)
携帯をおもむろにに胸ポケットから出し、ディスプレイを見つめてニヤついている。
覗き込むと一歳にも満たない赤子の壁紙を見つめている。
いろいろな幸せのかたちを乗せて、
様々な不幸のにおいを乗せて、
新幹線は東京を目指す。
均等に並んだ四角い無個性のマンションや
赤信号に群がる車が、ものすごい速度でもって過ぎ去る。
そんな風景を軽快な音楽を聞いて見つめているとこの列車に揺られる人々の時間だけが少しだけ未来に向けて早足なようで
列車をおりたときにはシワのひとちやふたつ増えててもおかしくはない、なんておかしい妄想が頭に広がる。
最後の一本を大事に吸い終えて、CDもちょうど一回りしたころ。
緩やかな睡魔が、やさしく僕を甘噛みしだして
シートを倒す。
静岡あたりでバタバタと雨が窓にぶつかるころ。
真っ黒な睡魔に僕の妄想ごと飲み込まれていった。
どうか品川で目を覚ましますように。